LANGUAGE

日本酒の未来を拓く

100年企業のふたりが語る日本酒の現在地と未来。

Episode 01 日本酒の現在地をはかる

賀茂鶴酒造の日本酒ダイニング佛蘭西屋にて、賀茂鶴のお酒と季節の料理のペアリングを楽しみながら、対談は和やかに始まりました。

日本酒の現在地

石井: お久しぶりです。山本さんとはお互いにメディア出身であるとか、父親同士が親しくさせていただいていたなどの共通点や関係があり、広島に拠点を構える100年企業同士、広島のことや酒文化について一度じっくりお話を伺いたいと思っていました。今日は西条までお越しいただきありがとうございます。

山本: 今回はお声かけいただきありがとうございます。また、この度は創業150周年おめでとうございます。

石井: ありがとうございます。さて、山本さんとは仕事関係の会食で何度かご一緒させていただきましたが、プライベートではそんなに何度も飲んだことはありませんでしたよね。普段はどんな風にお酒をお飲みになりますか?

山本: 友人と飲む時はまずハイボールを飲んで、温まってきたら日本酒という流れですね。家ではお気に入りのおつまみと一緒に映画を見ながらとか、ひとりでゆっくり1日を振り返る時間にお酒を使っています。

石井: いいですねえ、上手にお酒と付き合っておられますね。

山本: 量をめちゃくちゃ飲むという感じではないですけど、お酒を飲む時間は好きですね。若い世代を中心にお酒を飲む人が減っているようですが、最近の動向はどうなんでしょう。

石井: コロナ前からの健康志向や食生活の変化もあってアルコール全体が減退気味で、日本酒でいえば1970年代後半からずっと右肩下がりです。もちろん、どの酒蔵も必死においしいお酒を造るための努力を続けています。そのおかげでかなりの種類のおいしい日本酒を飲める時代になりましたが、日本酒が「選ばれる」かというと、それは難しい時代になりました。

山本: 確かにおいしい日本酒が増えていますが、手軽さや気軽さを求める若い世代にとっては日本酒はちょっと高すぎるし、飲むにしても「とりあえず日本酒」とはならないのかもしれませんね。

石井: おっしゃる通りで、日本酒は値段も高いし、アルコール度数も高い。レモンサワーのRTD缶(※1)だと5〜9度程度ですが日本酒は15度以上が大半ですから。でも冷酒、ぬる燗、熱燗といろんな温度帯で飲めるお酒は実は日本酒くらいで、体温に近い40℃で飲むとスッと入ってくる、体に優しいお酒なんです。そういうところも大事に伝えていきたいと思いつつ、それだけでは今の人たちには響かないというジレンマもあります。

※1 酒類業界で使われる用語。「READY TO DRINK」の略称でふたを開けてすぐにそのまま飲めるアルコール飲料のこと

いろいろな飲み方があっていい

山本: 東広島市「西条」は日本の三大酒処の一つですが、西条のお酒をひと言で表すとどういうお酒なのですか?

石井: それぞれの酒蔵の個性もあるのでひと言でというのはなかなか難しいのですが、軟水に近い水質なので、優しくて飲みやすい。癖がなくスッと飲めて、食事に合わせやすいということが特徴としてあげられると思います。

山本: お水に特徴があるのですね。ちなみに日本酒というと和食のイメージですが、石井さんがおすすめするマリアージュの楽しみ方を教えてください。

石井: 様々なマリアージュがあると思いますが、最近、日本酒とチーズが合うのではないかということで、チーズプロフェッショナル協会と協力して「チーズの会」を開きました。チーズというと日本酒よりワインを連想する方が多いと思いますが、ワインと日本酒とではチーズを食べたとき、口の中で起きることが違います。ワインは日本酒より酸が多いのでチーズを味わった後、すっきりと流す。一方、日本酒はワインより酸が低いのでチーズの旨みが口の中に残る。中でも賀茂鶴の酒は特に酸が低めで旨みもしっかりしているので、チーズの旨みと日本酒の旨みが口の中で混じり合うという変化が起きるというんです。

山本: チーズと日本酒、確かに面白いし、試してみたくなります。

石井: そうですよね。賀茂鶴でもこれまで同様おいしいお酒を造る努力を続けることに変わりありませんが、それは当然のこととして、ある意味従来の日本酒のセオリーから脱却した飲み方の提案も必要だと感じています。私はダイビングが趣味で、以前は沖縄にもよく行っていました。民宿に泊まるとタダで泡盛の瓶がドンと出てきて酒盛りになりますが、氷を入れたり炭酸で割ったり、自分流で飲めるんですよ。薄めに作ったり、濃いめに作ったり、ソーダで爽快感を狙ったり。でも日本酒の一升瓶がドンと出てきたら、人それぞれのライトな飲み方というよりはディープな酒盛りになってしまいますよね。

山本: 確かに日本酒の飲み方はどうしてもディープな印象がありますね。

石井: そこを変えていきたいという思いもあります。もともと「日本酒はこう飲まないといけない」という正解はありません。もちろんそのまま楽しむというのもありですし、度数も高いのだからもっとライトな感覚で飲めるようなシーンや、飲み方も提案していきたいと考えています。

山本: それでいうとウイスキーは高級なイメージがあって、度数も高いんですけど、割って飲む「ハイボール」という文化をつくって20代、30代の若い世代を取り込むことに成功しましたよね。最近はまっている日本酒のような味わいの「鳥飼」という米焼酎があって、それをソーダで割って飲むとすごくおいしいんです。だから、日本酒も「混ぜるのも、薄めるのもあり」みたいないろいろな飲み方があっていいのではないかと思います。

石井: 実は数年前に、広島大学の日本酒サークルと「日本酒ラボ」という、自分なりのおいしい飲み方を探るというイベントをしたことがあります。

山本: 大学生と一緒にというのはとても面白い取り組みですね。どんなお酒ができたんですか?

石井: この「日本酒ソルティドッグ」もその一つなんですよ。

山本: (ひと口、くちに含んで) あ、おいしいですね。

石井: もともと広島の水は軟水に近いので、お酒も癖がなくて食事に合わせやすいという特徴があります。さらに炭酸で割ったり、瀬戸内の柑橘と合わせると清涼感も増して、グッと飲みやすくなります。

山本: 柑橘といえば瀬戸内の島々ですが、今、その島にグランピング施設が続々とできていますよね。私も島内のテントで一泊して感じたんですが、グランピングに訪れた人たちが、施設内にある農場で収穫した柑橘をその場で地元の酒にぎゅっと絞って飲む、なんていうことができたらいいですよね。やっぱり、旅行先ではその地のローカルのものを飲んだり食べたりしたいと思いますから。

石井: 確かに「その時、そこでしかできない体験」というのは、観光においても大きな魅力になります。酒そのものの存在意義を高めるような提案をプラスできたら面白そうですね。

山本: 「コト消費」とか「イミ消費」とかいう言葉もありますが、ただ商品を売るのではなく、時代に即した消費行動とどう結びつけていくかという意識が必要なのかなと。例えば「ビーチで飲むお酒」とか「落ち込んだ時に飲みたいお酒」という提案があっていいかもしれない。

石井: いいですね。ぜひラベルの文字を書いてください(笑)ところで、そんな新たな挑戦をしていきつつも、100年企業として背負っているものとか守らなければいけないものもある。そのあたりを山本さんとじっくりお話ししたくて、ぜひ見ていただきたいものがあります。

山本: なんでしょう?

石井: 賀茂鶴の歴史を語る上で欠かせない一号蔵です。戦後の一時期、そこでお酒ではなくサイダーを作っていたんです。

Episode
01| 02| 03| 04
HOME 創業150周年 日本酒の現在地をはかる
ページトップへ戻る